「お前には…他の誰よりも汚い仕事を押し付けてきたな。隊内でも群を抜くほど腕が立つお前に、すっかり甘えっぱなしだった……」

「……そんなこと……」

「……女なのにな、お前は」



彼の初めて聞く……そしておそらく最期になるだろう本音の声に、私はバッと顔を上げ、声を荒げた。



「私は、私は、自らの意思で女を捨てたのです!貴方の命で刀を奮い、貴方の役に立てることが、私の何よりの幸せです……!」

「……黎桜(リオウ)……」



私の名を呼ぶと、彼は再び激しく咳き込む。

その口から垂れる血を拭いながら、彼はふっと息を洩らした。



「もう……時間がねぇな」

「っ副長…!」

「……これをお前に……」

「……?」



そう言って差し出されたのは、彼がいつも腰に差していた脇差。

受け取ったそれはずっしりと重く、まるで彼の魂が籠っているようだった。


私が何か言おうとするより先に、彼が口を開いた。



「こんなもん渡しといてあれだけどよ……俺の最期の頼み、聞いてくれるか」

「最期、って」

「聞いてくれ、黎桜」

「……っ分かりました」



命の灯が消えゆく彼。
……私は唇を噛み締め、彼の瞳を真っ直ぐにみつめた。

そして。




「俺が死んだ後……お前は剣を捨てろ」


「……え?」



予想もしていなかった言葉に、私の思考は停止した。


ーーー剣を、捨てろ?



「お前はこの戦を抜け、普通の女の生活に戻るんだ。いつか来ると思っていたこの時の為に、知り合いにお前のことを頼んである。もし俺が先に死んだら、黎桜の世話をしてやってくれと……」

「……っ待ってください!普通の女に戻れって……何を言っているのですか!?私はとうの昔に女を捨てたのです!」

「黎桜、」

「それに、副長がいないこの世で、副長を護れなかった私は生きる資格がありません……!貴方が逝った後、私も腹を斬ります!」



必死で反論する私を見て、彼は緩く首を振った。


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