「…夜這いでしたら私は間に合ってますので、三篠様の方へ行ってください」
「わ!き、桔梗さん!」
すぐ後ろから声が聞こえ振り向くと、桔梗さんが冷めた目で私を見ていた。
てかサラッと夜這いとか言ったよね、この人。
その辺はなんと言うか、三篠と似てると思う。
そう言うと怒られそうだから黙っておく。
絵のことを聞こうと思ったけど、桔梗さんがすぐに絵の入った写真たてを机に伏せてしまったから聞けなかった。
「…冗談はさておき。
姫様がこんな時間に一体何のご用でしょうか?」
桔梗さんに聞かれ、当初の目的を思い出す。
そうだった、桔梗さんに聞きたいことがあって来たんだった。
「…桔梗さんに三篠と黒兎のことについて教えて欲しいんです」
「………」
二人の名前を出すと、桔梗さんは鋭い表情をした。
やっぱり桔梗さんにも聞いちゃいけないことだったのだろうか。
「…何故私に聞くのです?
三篠様に直接聞けば良いのでは?」
確かに三篠のことは三篠に聞けばいいのかもしれない。
でも三篠のあの冷たい殺気を感じてしまったら、聞くにも聞けない。
胡蝶ノ国を出る時に見たことを、桔梗さんに話す。
「…深寿さんに聞いたんですけど、なんだか言いづらそうに答えられないって。
それで深寿さんが桔梗さんなら知ってるから聞いてみてって言ったので……」
「…それで私の部屋にいたということですね」
桔梗さんはため息混じりに言って、頭を押さえた。
その様子は何かを考えているようにも見えた。
「………深寿様はまだ引きずっておられるのか……」
「…え?」
「いえ、こっちの話です」
桔梗さんが何か呟いたけど、私には聞こえなかった。
しばらくの沈黙の後、桔梗さんは私に座布団に座るように促した。
私は促されるままに桔梗さんの向かいの座布団に正座した。