深寿さんはどうしようか悩んでいるのか、目を泳がせている。
「…ごめんなさい。わたくしの口からは言うことができません。
ですのでそのことは桔梗に聞いてください」
申し訳ございません。
深寿さんは眉間にシワを寄せ、悲しそうな表情を浮かべ俯いた。
胸にギュッと力強く握った拳を当てている。
するとその胸の谷間から斜めにお腹まで傷痕があるのに気付いた。
その傷痕は思いっきり刀で斬りつけられたような痕をしている。
他は傷一つないのに、ここの傷痕はすごく深く入ってる。
もしかして深寿さんが言えないことと関係あるのかな…?
「気にしないでください。
私もいきなり聞いてしまってすみません。
もう聞きませんから、そんなに力まないでください」
優しく胸元にある深寿さんの拳を包み込むように握った。
するとその拳は力が緩み、深寿さんも肩の力を抜いた。
深寿さんのことも気になったけど、これはもう聞かない方がいいと思った。
だから私からはもう聞かない。
深寿さんが話してくれるのなら、聞こうと決めた。
それからこの重い空気を変えるようにして、私は胡蝶ノ国で会った琴葉さんや蜜葉、そして菊葉ちゃんのことを話した。
それに深寿さんは微笑んで聞いてくれていた。
そんな明るい話をしながら、私はお風呂から出たら桔梗さんのところに行こうと決意していた。
お風呂から出て深寿さんと別れ、桔梗さんの部屋へと向かう。
襖の遠慮がちにノックする。
「…桔梗さん。私、小雛です」
中にいるであろう桔梗さんに声をかけたけど、桔梗さんからの返事はこなかった。
寝てるのかと思いつつもゆっくりと襖を開けてみる。
部屋の中は真っ暗で、桔梗さんが寝てる気配もなかった。
「…もしかしてまだ三篠と仕事してるのかな……」
私は電気をつける紐を手探りで探し、手がそれを掴むと引っ張った。
電気がつくと、桔梗さんの部屋の中が見えた。
すごく綺麗に整理されていて、たくさんの書類が机の上に並んでいる。
書類は妖怪のことや妖王のことなど、三篠のためになることについて書かれたものばかりだった。
桔梗さんは三篠のことを第一に考えてるんだね。
視線を移すと、机の隅に写真たてが置かれていた。
よく見るとそこにはお花畑にいて風になびく赤茶髪を耳にかける、綺麗な女性の絵が入っていた。
この人は一体誰なんだろう……
ついジッとその絵を見入ってしまう。