そんなことを思っていると菊葉ちゃんは私の耳に口を寄せて、こっそりと教えてくれた。
「…蜜葉もね?普段は仕事に真面目なんだけど、本当はみんなのこと大大大好きなんだよ」
クスクスと笑いながら話す、菊葉ちゃん。
蜜葉は確かに最初の自己紹介の時も堅かった。
それを見ると仕事に従順というか真面目なんだなと感じた。
そう思うと、ギャップがあっていいかも。
と菊葉ちゃんと一緒になって笑ってしまった。
「……菊葉様?しっっかりと聞こえておりますけど?」
「げっ、蜜葉……」
声のする方を向くと、蜜葉がニッコリと怖い笑顔を浮かべていた。
菊葉ちゃんは思わず苦笑い。
そして近付いてきた蜜葉に菊葉ちゃんは、拳で頭グリグリの刑に処された。
蜜葉は深くため息をついて手をパンパンと払っていた。
菊葉ちゃんはしゃがみ込んで、痛そうに頭を押さえていた。
私はそんな菊葉ちゃんにドンマイの意味を込めて合掌した。
そして今度は蜜葉が私の隣にやってきた。
遊郭を眺める蜜葉の横顔はすごく綺麗で、澄んだ瞳に吸い込まれそう。
他の遊女の方達と変わらないほどに綺麗なのに、どうして蜜葉は裏の仕事をしてるんだろう。
そんな疑問がふいに頭をよぎった。
「…何か私に聞きたそうな顔をしてるね、姫様」
ボーッと考えていたらいつの間にか蜜葉がこっちを見ていた。
ここまで見抜かれちゃったら聞くしかないよね。
「…蜜葉はどうして暗部っていう裏の仕事をしようと思ったの?
蜜葉だったら皆さんみたいに遊郭で働くこともできると思うんだけど……」
蜜葉はしばらく目を見開いたまま固まっていたが、やがてふっと笑って頬の傷痕を触った。
「…この傷は小さい頃に怪我してついちゃってね、痕になったんだ。
遊女たるもの、顔に傷は禁物でしょ?」
蜜葉の右頬には涙の跡のように傷痕がある。
そこまで深くはなさそうだから、化粧でなんとかなりそうだけど。
理由はそれだけじゃない気がした。
その予想が的中して、蜜葉は話し始めた。