「…何やってるの、営業に戻りなさい」
この声に騒いでいた遊女の方達は、静かになった。
声のする方を見ると、膝上丈の着物を身につけた女性が歩いてきた。
女性の腰には交差するように二本の刀がついていた。
外見は他の遊女の方達と違いがないほどに綺麗だけど、頬に傷痕がある。
「蜜葉がきた。アタシらはお暇するかね」
「蜜葉、用が終わったらアタシの店に三篠様と鵺姫様連れてきてね〜」
遊女の方達は手をヒラヒラと振ると、みんなそれぞれの店に入っていった。
みんなが店に戻ったことを確認すると、蜜葉と呼ばれる女性が三篠の前にやってきた。
そして片膝をついて頭を下げた。
「…お待ちしておりました、三篠様。遠路はるばるご足労いただき感謝します」
「…あぁ、構わない」
三篠の短い返事を聞くと蜜葉さんは頭を上げ、体の向きを私に変えた。
「お初にお目にかかります、鵺姫様。
私は胡蝶ノ国の暗部を率いる頭の蜜葉(ミツハ)と申します。
以後、よしなにお願いします」
「…こ、こちらこそ!
織原 小雛です。よろしくお願いします」
かしこまって自己紹介をしてくれた蜜葉さん。
私も釣られて何回かお辞儀をする。
ぶっ!
それを見ていた瑠璃葉がいきなり吹き出した。
「何そんなにかしこまってんだい、蜜葉。
姫様はそんな堅苦しいのは好きじゃないから、気楽にしていいよ」
蜜葉さんはしばらくキョトンとした目で瑠璃葉を見て、深く息を吐くと肩を力を抜いて立ち上がった。
「鵺姫を相手にするの初めてだったから、つい緊張しちゃって……
瑠璃葉がそう言うなら、いつも通りにいかせてもらうわ」
腰に手を当ててまた深く息を吐くと、蜜葉さんはまた私の方を向いた。
「…じゃあ、改めて。
この国の秩序を守る暗部の頭・蜜葉よ。呼び捨てで呼んでもらって構わないわ、姫様」
手を差し出されて、すぐにその手を笑顔で握る。
蜜葉さん改め蜜葉はさっきの固い感じとは違い、自然な笑顔で返してくれた。