部屋の中では黒兎は誰かと話していた。
階段を上ったところにいる黒兎は見えないが、下にいる話し相手は見ることができた。
(…あれは………冷樹…)
膝をつき黒兎と話していたのは雪女の長・冷樹だった。
冷樹の後ろ姿から何を話しているのか分からないが、仕事の話だろうと琴葉は予想し耳を傾ける。
「…それで、冷樹。
君の妹の居場所が分かったって言うのは本当かい?」
黒兎の言葉に琴葉は目を見開き驚いた。
(っ!?…冷樹の妹ってのは、三篠のところにいる氷雨だったよな)
「……あんな"穢れ物"、私の妹などと思ったことはございません。
ですが、居場所が分かったのは事実です」
冷樹は氷雨のことを穢れ物と呼び、その声は氷のように冷たさをもっていた。
とても妹の名を呼ぶ声音ではない。
「…あの穢れ物は……混妖の王、三篠の下にいることが分かりました」
「……っ!!」
核心に触れられたように、琴葉はその場に固まる。
妖王の敵である混妖の王・三篠のところには冷樹の妹である氷雨がいる。
黒兎は混妖を全滅させようとしており、冷樹もその方針に従っている一人。
その先の話を聞かずとも、琴葉には二人が何をするつもりなのか分かってしまった。
(黒兎は……氷雨を消すというのは口実で、本当は三篠を殺すつもりだ…!
でもどうして…三篠は黒兎の……)
何故二人が殺し合わなければならないのか、二人のことを知る琴葉には理解出来なかった。
だが今はそんなことを考えてられない。
一刻も早くこのことを三篠に伝えなければならない。