ーーーーー現妖王・黒兎の住まう城ーー
「…ったく、なんで朱綺も金蘭もいないんだい。
おかげでアタシが手紙配らなきゃならないじゃないか」
毛倡妓の長・琴葉は城に届いた手紙や荷物を宛名の純妖達に配っていた。
普段は女郎蜘蛛の長・朱綺の役目なのだが、生憎朱綺は不在。
城にたまたまきていた琴葉が配ることになったのだ。
広い城の中を迷わずに歩き続ける。
最後の宛先は妖王・黒兎にだったため、黒兎のいる部屋へと向かう。
黒兎宛の封筒をジッと見つめる。
(…にしても………)
紙一枚しか入ってなさそうなくらいに薄い封筒に疑問を抱く、琴葉。
長々と書く文ならば丸めるか、何重にでも折って入れるだろう。
そうなれば封筒も厚くなる。
(…何か緊急の情報か……?
それなら使い魔でも使わせて持ってくればいいものを)
琴葉は疑問に思いながらも封筒を持ち、黒兎の部屋に辿り着いた。
黒兎の部屋とはこの前、純妖の長達が集まった妖王の席が階段の上にあるという部屋のこと。
琴葉はあの部屋が好きではなかった。
(…見下されてる気がして、あまり入りたくないんだよね)
でもこの封筒を届けなければならない。
琴葉は仕方なく部屋の扉をノックするように叩こうとした。
だが中から聞こえた話し声に、扉を叩こうとした手が止まった。
「……か、では……」
中からは黒兎の話し声が聞こえるが、声が小さくてうまく聞き取れない。
琴葉は音を出さずに扉を片方だけ少し開け、中を覗く。