「最初からこうなるんじゃないかって思ってたわ。
小雛が三篠(あの人)と話してる姿を見て、愛し合っていると分かったもの」




お母さんはカップの縁を指でなぞりながら微笑んでいる。
その微笑みはどこか悲しそうだった。




「…お母さん、本当は人間として生きてほしかったわ。
人間として笑って、泣いて、怒って、人間独特の感情を人間のまま味って欲しかった。
まぁ、小雛が決めた道なら文句は言うつもりないから安心して?ただお母さんの意見ってだけだから」




ね?
お母さんは眉をハの字にして笑顔を見せた。




お母さんは人間として生きる道を選んで欲しかったんだ。
ひいお婆ちゃんみたいに。




でも私の気持ちは変わらない。
もう覚悟は決めているから。




今まで笑っていたお母さんは、次には真剣な表情で私を見てきた。




「鵺姫として生きるのなら、学校は家の事情という理由で退学するから。
人間を捨てて生きるんだから…分かってるわよね?」




「………分かった…」




まさか最近入学したばかりの高校をやめることになるなんて思わなかったけど、お母さんの決断は正しいと思う。




人間じゃなくなる私には、人間としての教育を受ける必要なんてないんだから。




亜子と璃々音にはもう会えないのかな?
最後に別れの挨拶くらいしておけばよかったな。




お母さんはコーヒーを飲み干すと、私の頭に手を置いた。




「でも帰ってきていいんだからね?
人間じゃなくなったとしても、家(ここ)はあなたの住まいなんだから。
何者であろうと、あなたは私の娘なんだから」




お母さんの手の温もりと優しい言葉に、涙が溢れてきた。
でも涙は流さない。




これでお別れじゃないから。




泣くのを堪えていると、いつの間にか起きていた三篠が肩に手を置いて微笑んでくれた。




私は目に溜まった涙を拭うと、三篠に微笑んでお母さんに笑顔を見せた。




ここから私の新たな道が始まる。




それはとても険しくて、一人じゃ進めない。
でも仲間がいてくれるなら、共に歩めばいいよね?




私の道を進むのは私一人だけど、未来は仲間と一緒。




そう思えば怖さで震えるこの足も、震えが収まるの。




さぁ、進もう。
まずは数歩先の明日を目指してーーーーー