翌日。
三篠と紅葉を起こさないように起きる。




いつもよりも早めに起きて、階段を降りる。
リビングには包丁のトントンという規則的な音が聞こえた。




キッチンにはお母さんがいて、朝食を作っていた。




「…小雛?随分と早いのね」




おはよ。
朝から完璧な笑顔を見せるお母さんにおはようと言った。




顔を洗って椅子に座ると、朝食を作り終えたお母さんがココアを淹れてくれた。




「…あ、ありがとう」




ココアの入ったマグカップを持ちながらお母さんを見上げると、お母さんは微笑み私の隣に座った。




お母さんはコーヒーを一口飲んで、カップをテーブルに置いた。




「……昨日よりスッキリした顔してるわね。
これはもう決まったのね?」




お母さんに勘付かれた。
やっぱりお母さんには敵いそうにないな。




私はココアを一口飲んで、ココアに映る自分を見つめた。




「…私、家族はもちろん親友の二人も大切。
でも、三篠ほど大切な人は思いつかなかった。いつの間にかまだ出会って日も浅い三篠が家族よりも大切な存在になってたんだって思った。
それで気付いたの。私は人間でなくなるよりも、三篠がいなくなる方が怖いってことに」




三篠がいなくなるのなら、私は迷わず人間を捨てよう。
人間を捨てて、三篠の隣に居られるのなら。




人間じゃなくなる怖さよりも、三篠がいなくなる怖さの方が大きいから。




だからね?お母さん。




「私は、人間じゃない道を選ぶことにした。
人間としてじゃない、鵺姫として私は生きるよ。
でも人間として生きたことは絶対に忘れないし、人間じゃなくなっても自我を失って暴走したりしない」




私はずっと私であり続ける。




体は人間じゃなくなるけど、心はずっと私でいるよ。




そうお母さんに笑いかけると、お母さんは少し驚いてからふっと笑った。