「ひいお婆ちゃんがね、『もし生きる道を選ぶことに迷っているなら、大切な人のために生きる道を選びなさい』って言ったの。
それで私なりに大切な人を思い浮かべたんだ」




お母さんや来海、大地におじいちゃん。
亜子と璃々音。




人間界の家族や友人は何よりも大切な人。




それでも、私が誰よりも大切なのは……




「…やっぱり私にとって一番大切な人は、三篠だった。
三篠が誰よりも大切で、失いたくない」




人間として生きて三篠を失うのなら、私は人間を捨てると思う。




でも……




「…人間を捨てて何者でもなくなってしまうのが怖い。
それに三篠は私の血を飲んでも、妖怪の力を覚醒させられなかった。
私はもしかしたら出来損ないの鵺姫なんじゃないかって思うの」




ひいお婆ちゃんが人間として生きたことで、私の鵺姫の血が変になってしまった。




そのせいで三篠は血を飲んでも妖怪の力に覚醒しなかった。
そう考えてしまう。




三篠は妖王になる者。
そのためにはしっかりとした血を受け継いだ鵺姫が必要。




出来損ないの鵺姫はいらないよね、きっと。




自分で言っていて悲しくなり、三篠の着物の袖に顔を埋める。




グイッ




「……っ!?」




いきなり三篠に腕を引かれ、私は三篠の方を向いてしまう。
その時に姿勢も崩れて、紅葉はベッドの上に転がった。




三篠は両手で私の頬を挟み、至近距離で見つめてくる。




視線を逸らすことが出来ず、見開いた目で三篠の灰色の瞳を見つめる。