「……私は妖狐の純妖なんです。でも産まれた時から尾が九つあって、それを一族の間では”九尾狐(キュウビコ)”と呼ばれていました。
九尾狐は災いをもたらすものとして、毛嫌いされる存在なんです」
知らなかった。
直接聞いたことなかったけど、紅葉も混妖だと思ってた。
「産まれてからずっと災いの元として、名前も与えてもらえず一族の誰も私に近寄ろうとはしませんでした。
一族に災いが起これば私は何もしてないのに、『災いが起きたのは九尾狐がいるせいだ』と言われ続けました。
私は耐えられなくなって、自ら一族から離れました」
昔のことを話す紅葉の表情はすごく悲しそうで、少し離れたら消えてしまいそうな弱々しさを感じる。
そんな紅葉も次には表情が明るくなった。
「…でもそんな時に、私は三篠様に拾っていただきました。数多いる妖怪の中で私を見つけ、手を差し伸べてくださったのです。
そして瑠璃葉母様に私の尾が紅いことから、紅葉と名付けていただきました」
このことは、桔梗さんから教えてもらった。
紅葉は三篠の臣下になるまで、瑠璃葉に育ててもらった。
だから紅葉は瑠璃葉のことを母様と呼ぶのだと。
臣下になってからは瑠璃葉の呼び方を変えろと桔梗さんは注意したらしいけど、紅葉は「母様は母様です!」って言ってきかなかったらしい。
だから桔梗さんも、もう諦めてるとか。
「…私はお二人に助けてもらった命を、お二人のために使うと決めているのです。
だから例え自分が恐ろしい化け物になるとしても、お二人の助けになるのなら、役に立つのなら喜んで化け物になります」
自分の命を懸けることでしか、お二人に恩を返せないと思ってますから。
紅葉は何の迷いもない笑顔を見せた。
紅葉の笑顔が太陽と重なって、眩しい。
見ていられなくて、思わず目を細める。
三篠と瑠璃葉のために命を尽くして戦う、これが紅葉の選んだ生きる道。
紅葉だけじゃない。
きっと他の六臣達も自分の生きる道を決めて、三篠の下につくことを選んだんだ。