お母さんから狂愛ノ書を渡され、鵺姫の運命を知らされて一日が経った。
私は久しぶりに神社の掃き掃除をしている。
でも頭の中は狂愛ノ書に書いてあったことばかり。
三篠は今朝、仕事が残っていると言ってあっちの世界に帰って行った。
三篠が昨日聞かされたことについて何も言わなかったのは、きっと自分で決めさせようとしてくれてるんだと思う。
確かに三篠に「お前は俺の隣にいろ」とか言われたら、私は迷わずに人間じゃなくなる道を選んだだろう。
私も三篠の隣にいたい。
三篠の大切なものを守って、三篠とずっと笑い合っていたい。
でもそのために私は、人間じゃない者にならなければいけない。
人間であることを捨てなければならない。
それに人間を捨てたとしても、自我を失い暴走する可能性がある。
ううん。きっと暴走する可能性のほうが高い。
私のひいお婆ちゃんは狂愛ノ書を読んで、人間を捨て妖王と結ばれることより人間として生きる道を選んだ。
ひいお婆ちゃんが人間として生きる道を選んだから、人間の鵺姫・私が産まれた。
私がもし、人間を捨て三篠と生きる道を選んだとしたら、私の人間として生きる未来はなくなる。
ひいお婆ちゃんが妖王と結ばれる未来をなくしたように。
どっちを選んでも、どっちかの未来は消える。
でもどっちかを選ばなくてはいけない。
竹箒を支えにしてその場にしゃがみ込む。
「…どっちかなんて……私には選べないよ………」
私にはこの選択は、重すぎる。