しばらくの沈黙を破ったのは、お母さんだった。
「…私のお婆様、小雛のひいお婆様は鵺姫だったの。
お婆様はこの狂愛ノ書を読んで、人間として生きる道を選んだと仰っていたわ。
そうして月日が経って、人間の鵺姫であるあなたが産まれた」
お母さんは真剣な眼差しで私を見つめた。
ひいお婆ちゃんが鵺姫だったことに驚いたけど、それよりも驚いたのは……
「今ならまだ人間として生きる道を選択出来るのよ、小雛。
三篠と一緒にいたいから人間じゃなくなる道を選ぶんじゃない、あなたの生きたい道を選ぶのよ」
私の…生きたい道……
お母さんの言ったように、私は三篠の隣にいたい。
でも人間でなくなって、自我を失い殺されるのが怖い。
自分がこの先どうなるのか、想像すればするほど怖くなる。
「…私は小雛の決めた道を支えるわ。
例えそれが人間じゃなくなる道だとしてもね。
だから答えは自分で出しなさい」
お母さんは微笑んで私の頭を撫でると、先に部屋を出て行った。
私が決める?
確かに私の人生だから決めなくちゃいけないのは分かってる。
でも決められない。
未来が見えて、人間じゃなくなった自分と人間として生きている自分が見れればいいのに。
私は、どっちを選べばいいの…?
どっちを選ぶのが、正解なの…?
私は本を抱き締めるように持ち、ただ苦しむことしか出来なかった。