「鵺姫は選ぶ妖王を間違えただけですわ。きっと黒兎(くろと)様を見れば、誰が真の妖王なのかご理解いただけるはずですわ」




朱綺はどこか楽しむようにクスリと笑う。
朱綺の言葉に琴葉は眉をひそめ、鋭い表情を浮かべた。




そして朱綺は誰かが歩いてくる気配を感じ、目を細めた。




「あなたもそうは思いません?冷樹(れいじゅ)」




白い生地に氷の龍が描かれている着物を身につけ、彼女が歩く度に足元は凍りつく。




地面につきそうなくらい長い黒髪を揺らし、何にも興味を持たないような冷めた水色の瞳をした雪女、雪男の長・冷樹はゆっくりと歩いてきた。




冷樹は視線を金蘭、琴葉、そして朱綺へと向ける。
しばらく朱綺を見てから、冷樹は目を伏せた。




「鵺姫が誰を選ぼうが関係ない。鵺姫は妖王と結ばれる運命にあることには変わりないのだから。
私はただ黒兎様に刃向かうもの全て消すだけ」




それが例え肉親であろうと。




冷樹のこの言葉は誰にも聞こえていなかった。
そして冷樹は階段を上ったところにある、まだ誰も座っていない椅子を見上げた。




すると。




「冷樹の言う通りだ。鵺姫が誰を選ぼうが関係ない。私と鵺姫は結ばれる運命、それを邪魔するのなら消すだけだ」




声が聞こえた瞬間にその場にいた四人は道を開け、跪いた。




整った肩までの黒髪を揺らし、頭からは二つの角を顔を出している。
何も描かれていない真っ黒な着物は何も写さず、だがジッと見つめていれば闇に飲み込まれてしまいそうだ。