「すみません、実里くん、悪気はないんですよ」
渡部さんが自分の弁当箱から美味しそうな焼き色をした黄金色の卵焼きを分け与えてくれる。
足立くんと違って、渡部さんは優しくていい子じゃないか。
友達できないこと、ないよ。

「これおいしいね!お弁当、もしかして自分で作ってるの?」
「ありがとうございます。祖母に手伝ってもらって作っています。その卵焼きは祖母のなんですけどね・・・」
「へえ・・・かぼちゃの煮物もおいしそう」
「それも祖母です」
「これはサイコロステーキ?凝ってるね」
「冷凍食品です」
「・・・渡部さん、なにしたの」
「サラダの盛りつけです」
「な?こいつ案外ヒモ女だぞ」

とりあえず、苦笑いでもしながら心を落ち着けようと思う。
いや、渡部さんは普通だ。
ちょっとでも自分の弁当作りに加担してるだけマシじゃない?
私なんて、行きがけにパン屋でパン買ってるだけだし。
ていうか、朝のパン屋さんってもうちょっと種類増やすべきだよね。
おっと、そんなことを考えてる場合じゃない。

「足立くんは?そのお弁当、お母さんが作ってるの?」
「いや、自分で作ってる」
「へえ・・・器用だね。ウインナー、たこさんだしね」
「何か狙ってそうですごく嫌味でしょう、浅野さん」

正直かわいかったけど、よくよく考えると確かになんか狙ってそうでウザいな。
私がそう思ったのが伝わったのか、足立くんは眉をひそめる。

包丁の練習してるんだけど、と彼はボソリと呟いた。
ちょっと自分でもそうかもと思ったに違いない。