「ひとつ下の雪生が中学に入学して。雪生はバスケを小学校からやっていたから、中学でも迷わず入部したみたい。わたしも女バスだったんだけどね」
雪生……本当にバスケットしてたんだ。漫画だけじゃなくて。
そんな小さなことすらも、知らないことが淋しくて。けれど、それは仕方のないことだと言い聞かせつつ……それでも、当時の雪生を知るという、目の前のアキさんが羨ましく思ってしまう。
「……ほら。なんか、小学校と中学校っていきなり環境変わるじゃない? 今まで隔てなく遊んだりしていたのに、急に『先輩』とか『後輩』とかって線引いて」
思春期の全体像を口にしながら、アキさんは失笑する。
その話は、わたしの時代でも思い当たるフシがあるから、思わず軽く頷いた。
「それが、当時の男バスはちょっとひどい方でね。顧問の先生が見えないところで、結構ヒドイ指示とかしたりしてたのよ、後輩に対して」
たまに、ニュースでも見る。陰湿な、イジメにも似たことが、知られてないだけで日常的に世の中に蔓延してるというものを。
幸い、わたしはそういうものを体験どころか見る機会もなくここまできたけれど。
「――雪生ももちろん例外ではなかった……後輩として。理不尽な雑用とか、きっとわたしが見てないところでもあったんだと思う。でも、雪生はそれに対してひたすらに我慢してたみたい」
もしかして……そういうことがあったから、人間関係が苦手っていう意識が芽生えてしまったのかな。だとしたら、ひどすぎる。
まるで自分のことのように、悔しい思いを握る手に込めた。
「その雪生が、我慢できなくなったのは――」
あの優しい雪生が、我慢しきれずに感情的になる瞬間。それはもしかして……。