雪生の背中に手を回したまま下心とかナシでそう言うと、眉を少し下げて微妙に困ったような顔で。
「――このタイミングで、そういうのは反則」
『どういう意味?』って聞き返したかったけど、それよりも先に軽いキスが落ちてきて。
それにびっくりする間もなく、再び雪生が動きだす。
必死に、置いていかれないように。
少し前に雪生が言ってたとおり、わたしはしがみつくようにしながら。全てを、彼と自身の本能のままに委ねるように目を瞑った。
そこからは、時間という括りから解き放たれた感覚。
突然、雪生の切なげな声が鼓膜を揺らし、動きが鈍くなると体を震わせた。
爪を立てていたことに気づいたわたしは、力を緩ませる。そして距離を少しあけて、雪生の顔を見ようと思ったのだけど。
「……雪生?」
ドサリ、と、覆い被さる雪生の重みを全身で受け止めながら、その名を口にする。
耳元に顔を埋めるようにしたままの雪生からは、まだ返事が聞こえない。
徐々に息切れが落ち着いてきたのがわかると、そっと顔を雪生側に動かしてみた。
ドクドクと打つ心音の正体は、密着している雪生の音だ……。
温かいリズムを感じていると、サラッとした雪生の髪が横顔をくすぐった。
「……カラダ。だいじょぶ?」
「あ……は、はい。雪生、は?」
「……オレは、だめだ」
「えっ!」
「“シアワセ”すぎて」
目を丸くしたあと、それがさっき自分の表現だったことを思い出し、耳まで赤くした。
ぱっと顔を正面に向け、照れ隠しで目を逸らすと、胸に掛かっていた重い負担が軽くなる。上半身を起こした雪生が、瞬く間にキスをした。