「テキト―に座ってて」


パサリ、と被っていたキャップを脱ぎ捨てて、一面にモノが広がった机をなにやらガサガサと動かす。

わたしは、部屋の隅で立ったまま、目だけでちらりと部屋を一周する。

……たぶん、1LDK。でも、すごく綺麗な部屋だから、きっと家賃は同じ間取りのとこより高そう。
じゃあ、この人も、結構人気のある漫画家さんなのかな?

それにしても……結構、乱雑な部屋だなぁ。男の人だし、ここで仕事をしてるから、そんなものなのかな? だとしたら、雪生の部屋は普段は綺麗なほうなのかも。


「ミキちゃんはさ。普段、マンガ、読まないんだ?」
「えっ? あ、と……すみません」
「いや? いーんじゃない、別に」


雪生の部屋とは違う空気。雪生とは違う話し方。
その当たり前のことに、わたしをびくびくとさせていた。いつの間にか、雪生に慣れていたのだ。

それを悟ったのかどうかは知らないけれど、外崎さんが、じっとわたしを見つめる。


「あ……の……?」
「あのコさ」


真っ黒な瞳。その目にずっと見つめられてしまうと、金縛りに似たような現象が起きてる気がしてしまうほど、動けない。瞬きも出来てない気がしながら、それでも目を逸らせなくて。


「今日もあっち、行ってるんでしょ? 手伝いは“ついで”で」