大浴場に着くなり、一言。

「さあ、これを着ろ」

渡されたのは、紺色で上下が繋がった水着。
いわゆるスクール水着というやつだった。

「これなら濡れても平気だろ」

どやがおで渡されても、まだありがたみを感じられる。
前回のびしょぬれの失敗を活かした、すばらしい一品だ。
たまにはいいことするじゃないか。
感心したのもつかの間。

「ぽろりもあるビキニもいいかと思ったんだがな、そのまな板に合うものが無くて、仕方なくだ。だが、スク水だからといって侮るなよ。ブルセラと並び称される男の夢だからな」

昭和か!
……やっぱり、御曹司はこういう奴だった。
欲望に忠実で揺らがない。
それに、まな板とはなんだ。
スク水両手に怒りに震えていると。

「そうかそうか、気に入ったか。流石は俺。チョイスも完璧!」

的外れにもほどがある。
どんだけ前向きなの。

「だが、ビキニも着たいよな。大丈夫だ、俺に任せろ。女の胸には夢が沢山詰まっている。それをまな板のままにはしておけない。利害は一致してる。……女の胸というのは男に触られることで大きくなるらしい。お前は俺が立派に育てて…」

「セクシャルハラスメント禁止です! …………ワン」

これ以上は黙ってられない。
このボンボンはちょっと放っとくと、何をしだすかわからない。
ビックリ箱というより、不発爆弾だ。
いつ襲ってくるかわからないという意味で。
それに、詰まっているのは夢じゃなく、脂肪だ。
人間一皮剥けば皆一緒。
御曹司は不服そうで。

「ちょっとくらいいいじゃねぇか。婚約者なんだからよ……」

「婚約者、こ、う、ほ、です。正式に決まったわけではないでしょうワン」

それに、婚約者であることが理由になって堪るか。
お互いに同意の上が理想である。
婚約者候補の話にしても、説明と同意、インフォームドコンセントが必要です。
なんて、いまさらな話なんですけど。