絵描きの手はだんだんと冷たくなっていった。
「俺のせいだ。俺の絵なんか描くから、こいつは…。」
俺は自分を責めた。
しかし気付いた。早く手紙を届けなければ。
あたりは雪が降っている。
険しい山道だが、つらいなんて言ってられない。
今はなき親友との約束をはたさなければいけない。
俺は手紙を口にくわえて走った。
「見ろよ悪魔の使者だ。」
と子供が石を投げつけてくる。
何とでも呼ぶがいいさ。
俺には消えない名前がある。
「ホーリーナイト」聖なる夜と呼んでくれた。
絵描きの声には優しさも温もりも全て詰め込んであった。
忌み嫌われて孤独だった俺を優しく救い上げてくれた。
俺はきっとこの日のタメに生まれてきたのだろう。
俺はどこまでも走る。
やっと親友の故郷にたどり着いた。
例の恋人の家まであと数キロだ。
走った。転んだ。すでに満身創痍だ。
立ち上がる間もなく襲い来る罵声や暴力。
負けるもんか。俺はホーリーナイトだ。
千切れそうな手足を引き摺り走り続けた。
やっと見つけた!この家だ。
手紙を読んだ恋人はもう動かなくなって冷たい猫を撫でる。
そして彼の名にアルファベットを一つ加えて庭に埋めた。
「Holy Knight」聖なる騎士
end