「ごめんなさい」

前のあたしなら、即答で行きます!なんて返していたんだろうか。

「ああ、そっか。なら仕方ないね。いきなりごめんね、誘っちゃって。じゃあ、またね」

「いえ、こちらこそ本当にすみません。また」

あたしが深々と頭を下げると、久瀬先輩はニコリと優しく笑ってグラウンドへと駆け足で向かって行ってしまった。

「…………」

………このあたしが、久瀬先輩の誘いを断るなんて。

以前のあたしなら久瀬先輩からの誘いなんて嬉しくて堪らなくて、仕方がなかったはずだ。

それなのに、今は―――――

「…………っ」

これほどまでに重症なのかと、今更になってやっと気付く。そこでもう一つ、ある大事な事にふと気が付いた。

「…………」

久瀬先輩と会って目を見て笑顔を向けられたにも関わらず、自分の心臓が全くの無反応だったのだ。平常心のままだった。

恋心って言うのは、こんなにも単純で素直なものなのかと、改めて気付かされる。

「………あたしやっぱり、」

そこまで言い掛けて、あたしは下唇をギュッと噛み締める。

自覚すればするほど、心と体が虚しくなる。