「心ちゃん?」

ひと気の少ない廊下に辿り着いて久瀬先輩の腕を離すと、先輩はふわりと笑って「急にどうしたの?」とそれだけ聞いて来た。
あたしはそんな久瀬先輩の表情に、どうしようもなく胸が締め付けられる。

「……あ、あの、今日は久瀬先輩にどうしても言いたい事があって…」

「え。僕に…?」

「はい。今から部活なのに、いきなり呼び掛けちゃってすみません…」

「あ、良いよ良いよ。ちょっとくらい遅れたって大丈夫だし。それより、心ちゃんの言いたい事の方が気になるな」

「……っ」

少しばかり胸が疼いてしまってズキンと心臓に響いたけれど、あたしはそこから意を決して、ゆっくりと口を開いた。


「あの、久瀬先輩……」

「ん?」

久瀬先輩があたしに向けてくれる笑顔は、いつだって優しかった。その笑顔に惚れたのも、嘘なんかじゃない。


「…あの、今まで本当にありがとうございました」

あたしが深々と頭を下げてそう言うと、目の前の久瀬先輩はちょっと驚いたような顔をしていた。

「えっと。心ちゃん、いきなりどうしたの?よく分からないんだけど…」