「今から帰るの?」

「えっと、はい。先輩は今から部活ですか?」

「うん。そうだよ」

いきなり現れた久瀬先輩に驚きつつ、あたしは必至に脳内で掛ける言葉を探した。

「ぶ、部活、頑張って下さいね」

「うん。これでもキャプテンだからね」

優しい声でそう言った先輩がふわりと嬉しそうに笑う。そんな先輩の笑顔に、ついこっちまで笑みが零れてしまう。


そこから少しばかりの沈黙が続いてしまってどうしようかと迷っていると、

「ねぇ、心ちゃん」

意外にも久瀬先輩の方から、あたしに声を掛けて来てくれた。

「な、何ですか?」

「あの、もしよければで良いんだけど、今度の土曜日、空いてたら一緒に何処か行けないかなーって」

「………えっ」

予想外な事にあたしは一瞬目を大きく見開いてしまう。

「…………」

………あの久瀬先輩が、あたしを誘ってくれてる?

「………どうかな?」

「えっと、その……」

――――凄く嬉しい。だけど、今は、


「ご、ごめんなさい。その日はちょっと…」

今は矢沢君との事で頭がいっぱいで、こんな状態で久瀬先輩と遊びに行ったらいけないと、単純にそう思った。