唐突過ぎて、まるで一瞬幻想でも見てるんじゃないかと思った。

「…………」
都合がよすぎるとしか思えないこの状況に、相手の金髪男も大人しくあたしから腕を離す。


「チっ、仕方ねぇから見逃してやるよ。……あー、つまんね」

金髪男は投げやりにそう言うと、ドカドカとした歩調のままあたしの横を通り過ぎて行ってしまった。


「……………」

「……………」

そこからさも当たり前のようなシーンとした沈黙が続く。

まさか矢沢君が此処へ来るなんて全く予想もしていなかったから、今のこの現状は物凄く気まずい。


「……何してんの、お前」

「…………、え」

するといきなり矢沢君が口を開いたかと思えば低い声でそれだけ吐き捨てて来て、あたしは当然のようにグッと押し黙ってしまう。


「気を付けろよ」

「………!」

―――けれど、不意に耳を掠めた言葉は、まるで有り得ないくらい、優しい声だった。