「………こっち」

「………っ」

いきなりあたしの方へ腕を伸ばして来た矢沢君は、あたしの口元に付いていたクリームを、指の腹でそっとすくいあげた。

「……!」

それだけならまだ良かったものを、矢沢君は指ですくったあたしのクリームを、ぺロリと何気ない顔で舐めとったのだ。

あたしはそんな矢沢君の行動に、嫌でも心臓が跳ね上がる。

普通に考えてあたしの頬に付いていたクリームを指ですくい、そのクリームが付いた指を平然とした顔で舐めとるだろうか。いや、普通は舐めないだろう。
そもそも、言葉で言い表してくれたら良いだけの話なんじゃないだろうか。

矢沢君が余計な事をする所為で、あたしの心臓はドキドキしっぱなしだ。

そんな如何にも小さ過ぎる事をうんぬんと考え込んでいると、あたしの目の前に座る矢沢君が「そろそろ帰るぞ」と腰を上げた。