楽しかったんだろう。
最初は嫌で嫌で仕方がなかったけれど、それでも良いところばかりを秘めている矢沢君に、あたしはどんどん執着していってしまったんだろう。
最低な奴だと思っていたら、本当は凄く良い奴で。
素っ気ないなあなんて思っていたら、それはただあの矢沢君が不器用だったからで。
意地悪だと思っていたら、本当は物凄く優しくて。
いつも、こんなあたしの事を考えていてくれた。
………だから。
だからこそ、そんな矢沢君だったからこそ、今の現状は物凄く辛くて苦しくて、受け入れ難い。
「…………」
いつまでもウジウジして馬鹿みたい、あたし。
そんな事を思いながら、駅までの道のりを歩いていると、
―――――ドンっ
いきなり反対側から来る誰かと、勢い良く体がぶつかってしまった。
「痛っ…」
当のあたしは前なんか見ずに歩いていたから、ぶつかった相手の人に鼻先を強くぶつけてしまった。
「……前見て歩いてね」
「ご、ごめんなさい…!」
あたしが顔を上げて謝ると、ぶつかったその人と一瞬視線が重なる。
「………」
だけどその瞬間、あたしは思いっきり頬がピクリと引きつってしまった。
物凄くヤバいのにぶつかってしまったかもしれない。
あたしの目の前には、いかにも不良オーラマックスの野蛮な男が、こっちを見下ろしながら立っていた。