リュティアは何も言い返せなかった。

心当たりがある、などというものではない。

そのものずばり自分のことを言っている。

植物の成長のことも、星の光が大好きであることも。そして…フレイアが溺れたあの時、なぜ泳いだことなどない自分があれほどまでに泳げたのか、疑問ではあったが、まさか…。

黙り込んだリュティアになどお構いなしに、少年は続ける。

「3300年前のことだ。光神と闇神、光の眷属星麗と闇の眷属魔月の戦いが起こった。戦いは300年の長きにわたって続き、光神も闇神も力を使い尽くした。そして、3000年後の未来に決戦の時を託したんだ。それが今、まさに今だ。〈大いなる戦い〉というその戦いのために光神が生み出した光神の息吹、希望―それが君、聖乙女(リル・ファーレ)だ。

聖乙女には、使命がある。17の誕生日の日に、“最初の叙情詩”を再びつくることだ。それによって世界は新しく生まれ変わる。けれど似たような使命を帯びた厄介な存在が、敵側にも誕生しているんだ。

それが、魔月王“猛き竜(グラン・ヴァイツ)”。動物たちの間で三千年間脈々と受け継がれてきたその伝承の通り、魔月王は誕生した。聖乙女とまったく同じ日、同じ時にね。

彼もまた、その17の誕生日の日に、最初の叙情詩と同じだけの力をもつ、“闇の叙情詩”を発動させる力を持っている。もしそれがかなってしまえば、世界は魔月の天下となる。なんとしてもそれだけは避けなければならない」

初めて聞く話に、いつの間にかリュティアは引き込まれていた。

信じないとつっぱねるには、深みのありすぎる情報だった。

「そのためには、力が必要だ。魔月たちと互角に戦っていく力、17の誕生日の日までなんとしても生き延びる力。それが、聖具にこめられている。

聖具はただの王権の象徴なんかじゃない。

決戦のために3000年間、残された星麗たちが守ってきた君の力そのものなんだ。

聖具を身につければ、君は星麗としての大いなる力を身につけることになる。

君は絶対に三つの聖具を手に入れなければならない。絶対に」