「そう、ですね! そうです。部屋が一番怪しい。カイはそこでさらわれたのですもの!」 

しかし次第にリュティアの声はしぼんでいった。

「でも気配をたどるなんて、どうしたらそんなことができるのでしょう…」

しおれるリュティアを、アクスは大げさに肩をすくめて見下ろした。

「お前は伝説の聖乙女(リル・ファーレ)なのだろう? とさっきから聞いているだろうが」

「え?」

「聖なる力を持っているなら、それを使ってみろ。お前なら、気配をたどることができるかも知れない」

「聖なる力を…?」

「そうだ。お前にしかできない」

「む、無理です。私にはそんな力…」

「なら諦めてフレイア王女たちに任せることだ。さ、王宮に着いたぞ。話はこれで終わりだ」

「…………」

アクスは、子守りは終わりとばかりにひらりと手を振り、歩み去ってしまった。

リュティアは考えた。

必死で考えた。

自分の身に聖なる力が宿っていることは、知っている。

叙情詩を読むことで発揮される、癒しの力と、植物たちを成長させる力。

その力で、カイやパール王女の居場所を探し出す。そんなことは可能なのだろうか?

けれど、どんなに些細なものでも、可能性が少しでもあるなら試したかった。

フレイアたちがカイを捜し出すのを待ってはいられない。

こうしている間にも、カイの身が危険にさらされているのかもしれないのだから。