フレイアたちが捜してくれているのだとしても、リュティアはいてもたってもいられなかった。

「私、もう少し捜してみます…!」

「待て、リュティア王女」

身をひるがえそうとした彼女の腕を引いて、アクスは引き留めた。

「冷静になれ。伝説の聖乙女(リル・ファーレ)なのだろう?」

「え…?」

「ここがどこだかわかるか?」

そう問われて、急に頭が冷えた。

リュティアは周囲を見回し、そこがヴァラートの街角であることに気が付いた。

アクスはどうやら、試合を終えたばかりなのに、錯乱して飛び出して行った自分を追ってきてくれたらしい。

途端に羞恥がこみあげてきて、リュティアは頬を紅潮させた。

「…街の中…ですね…」

「いいか。お前があまりにも情けないから教えてやるが、いくら外を捜しても、仕方がないかもしれないぞ」

「どういう意味…ですか?」

「それは帰り道で教える。ほら、行くぞ。…まったく、なんで私がこんなことを」

ぶつぶつ言うアクスに手を引かれ、リュティアは王宮へ向かって歩き出した。

「灯台もと暗しという言葉を知っているだろう」

「…はい」

「一連の事件がまさにそうかもしれないと私は思う。
パールヴァティー王女の件は私もフレイア王女から聞いたが…実際に魔月を見た者がいないということが引っ掛かるんだ。
魔月が、彼女だけを狙うことなどあるのだろうか? 仮にそうだとしても、周囲の人間の一人くらいは目撃していてもおかしくないのではないか? つまり、魔月など最初からいないのかも知れないということだ」

「それは…ええ!? 魔月じゃなければいったい誰が」

「そうだ。魔月じゃないのにそう見せかけることができる誰かだな」

「いったい誰でしょう…」

「それはわからん。だが巫女姫たる彼女をさらえるだけの力を持った人物だな」

「ではカイは!? カイはどうして…っ」

「わからん。だがそれもそいつの力かもしれん」

「うそです。そんな名前も知らない誰かにカイがさらわれる理由なんて思いつきません」

「仮定の話だ。魔月の仕業ではないとしたら、さらわれたパール王女やカイはどこにいると思う?」

「わからないから、捜しているんです…」

「灯台もと暗しと言っただろう。カイがいなくなった部屋。そこに残る気配。それをたどることができればあるいは…」

「!!」

リュティアは背中に電流が走ったように感じた。