リュティアは気がついた。

物々しい空気は兵たちから放たれていたわけではない。この王が放っていたのだと。

リュティアは王の評判を思い出した。武力にて国を平らかに治めてきた武王、そして野心家―彼の野心は友情を裏切り永久なる花園をも手中に収めようと画策していたのだ。だからその睥睨はこんなにも威圧的に場の空気を支配していたのだ。

柱と柱の間の大きな半円形の開口部から、ざぁっと風が吹き抜けた。風はあまりのことに声のないカイとリュティアの髪を揺らし、緋色の旗をはためかせて通り過ぎていく。

左右に割れて流れる風の行き先から、不意に高い声が響いた。

「何を言い出すのですお父様! それは裏切りです! 許されることではないわ!」

現れたのは真紅のドレスに身を包んだフレイアだった。

全身に怒りをみなぎらせた彼女の背後には、ジョルデとザイドがつき従っている。

「なんじゃフレイア。いきなり現れよって。留守の間にたまった仕事があろうに」

「そんなことどうでもいいですから、どうか今の言葉、お取消しください。協力してさしあげてください! 彼女たちは私の大切な仲間なのですから!」

「大切な仲間、だと? なにを。ほんのひと月あまり共に過ごしただけではないか」

「仲間になるのに、時間は関係ありません! ほら早く、協力を約束して!」

「できぬ。できぬと言ったらできぬ!」

フレイアを相手にすると、老獪なエライアスもまるで頑是ない子供のようだ。

「国王陛下。私からもお願い申し上げます」

「むう…ザイドか。お前は早くこのじゃじゃ馬を御して立ち去れ」

ザイドが頭を下げても、エライアスはふんぞりかえり、再び酒の注がれた杯をあおっている。気を変えるつもりはないようだった。