「あ、あの。」
いつもの場所に行こうとしたら、あの人が振り向いて声をかけた。
初めて聞く、彼の声。
思ったより低く、それでいて澄んだ声。
「これ、昨日落としませんでしたか。」
そういって彼が差し出したのは昨日なくしたあのハンカチだった。
「これ・・・。なくしたと思ってたんです。拾ってくれたんですね。」
そう言って彼の手からハンカチを受け取る。
その瞬間、指先がほんの少し触れる。
あわてて手をひっっ込める。
「あのっ。拾ってくれてありがとうございますっ。」
恥かしくなって、頭を下げて立ち去ろうとする。