リクエストされた唄は、ちょこっと歌っただけ。

しかも、上手く歌えなかった。

なのに、

〝綺麗な声”

とか、

〝やっぱり人魚が”

なんて言ってくれて―…

でも、やっぱりそれだけで彼は帰って行ってしまった。

そうだよね。

何をドキドキしてたんだろう、私。

昨日の言葉はあのヒトにとって、特別な意味なんてないんだろうし……

華やかなオーラを持つ彼は、明らかに私とは別世界のヒト。

何だかしょんぼりした気持ちになって、そんな事を考えていると、


「……さん、浜崎さん」


後ろの席から小声で私の名前を呼ぶ声が聞こえた。