「あの時、私が宝条くんの言葉を信じて行かなければ、響は今もピアニストとして活躍出来ていた筈なのに―…」


綾さんが大きな瞳に涙をためて、言葉を振り絞る。

宝条さんは、綾さんが月島先輩に関わらないで、と懇願することで、月島先輩から手を引くことなんて、さらさら考えていなかった―。

目的は綾さんを“人質”にして、コンクール直前の月島先輩を呼び出すこと。

勿論、月島先輩は綾さんの元へ行くことを選んだ。

綾さんを盾に月島先輩に恨みをはらして、そして、月島先輩の両手を―…ボロボロに。

大事な大事なピアニストの手を潰してしまった。