それから1週間後には結婚式が行われた。

使用人や知り合いだけの結婚式と小さな披露宴ではあったが、それでも庶民としては大がかりなものになった。


会社や立場を重んじる披露宴は後日またいい日があれば・・・ということになった。

現在、父親のいない学生のクレアにとっては、対外的なお付き合いも精神的に負担になるだろうことをゼイルは気にかけていた。


「きちんと、前々からあつらえたウェディングドレスを着せてあげられなくてごめんな。」


「いいのよ、そんなの。
私はもう待ってくれるお父様だっていないんだもん。
それより、いろいろ気にかけてくれてありがとう。

私ずっと見えてなかったのね。
使用人が最近はみんな教えてくれるの。
ゼイルがどんなに私の心配をしていてくれたのか・・・。

ありがとう。」



「お礼なんていいって。
俺は毎晩、クレアの寝顔が見れるようになっただけでもとてもうれしいよ。」


「もう、やだ。そういうHな言い方ダメ。」



「ふふっ、うちの使用人は俺たちがいつ一緒に寝たかもちゃんと知ってると思うけどなぁ。
ただ、とても職務に忠実だから知らんふりはしてくれているけどね。」


「うそぉ!!・・・でも・・・そういえばメイドたちも・・・。
やだ・・・。」



「それにしても、真剣みのない式になっちゃったなぁ。
こんな話しててさ。くくくっ。
ほら、そろそろ誓いの言葉だよ。」


「あ、そうだった。」



リックたちも常連客もお祝いにかけつけてくれて、想像よりもこじんまりな結婚式はうまく終わったかのように見えた。


夜になって、クレアは新婚初夜というものをどうしたらいいのか、寝室で悩んでいた。


「あんまり物惜しそうなのもいけないし・・・私はまだ学生なんだし・・・。
やっぱり夫についていくしかできないし・・・。

ああ、何をどうしたらいいの?
このまま待っていればいいのかしら?
それでも・・・あれ?なんか遅い気がする。

お仕事の電話でもあったのかしら?」



クレアは部屋を出て電話のある部屋まで出た。
すると、話し声がきこえて、わりと周りの部屋にも響く女性の声だった。


「取引先とのトラブル?」


さりげなく、声のする方をそっとのぞいてみて、クレアは息をのんでしまった。

ゼイルが金髪の美人と濃厚なキスをしていた。



「そんな・・・これが初夜にすることなの・・・。
裏切り行為じゃないの?

お客様が帰るまで、みんな私を祝ってくれたのはみんなで嘘をついていたの?

最低!!」



ガタン!!!

物音で気付いたゼイルが慌てて廊下に出たときには、クレアは自分の部屋に向かって駆け出していた。


「クレアっ!・・・く、くそっ!」


「ぷっ、あはははは。いいところを見られたわね。
若い女に振り回されていると、痛い目をみるってわかった?

お姉さまの復讐には十分だったわ。
じゃ、おじゃまさま。」


「ち、ちがう!君の姉さんを傷つけたのは俺じゃない、それだけは信じてくれ。
もう一度じっくり調べなおしてみてくれればわかる。

買収はうち以外にやってた会社があったはずだ。調べてくれっ!」


「・・・・・・。」