そんな話をきいていたときに、ゼイルがもどってきて、


「厨房を勝手に使って申し訳なかったね。
これで、クレアに・・・あれ、クレア・・・もう起きて大丈夫かい?」


「もう、な、何を言ってるの。
や、やめてよ・・・はずかしい。
もう、これからは服も用意しないで。

私がダンナ様の服は用意しなきゃいけないんだから。」


「どうして?
俺は、クレアの執事をするのが気に入っているんだからいいじゃないか。
俺の服なんてクローゼットに順番に入ってるから大丈夫だって。

さ、朝食を食べようか。朝はしっかりと食べないとね。」



「だって、そんなこと言ってたらお仕事が・・・」


「仕事?社長の仕事だったら、秘書にそれぞれ分担をして頼んでおいたから来月まで大丈夫だって。
ほら、これから結婚式もやらないといけないし、新婚旅行もしなきゃ。
学校もその間は休みをとらないといけないだろ。忙しいぞ。」


「もう・・・そんなとこまで?」


「そんなとこって早ければ2週間後には俺は親父になってるかもしれないじゃないか。
もたもたしてる場合じゃないんだ。」


「ゼイル・・・たら・・・。」


セイになっていたゼイルからも想像つかないくらい、こまめに働き、とてもうれしそうなゼイルの様子に怒ったり注意する気にもなれなくなってしまったクレアだった。

むしろ、こんな表情のゼイルを見るとすごくかわいらしく感じてしまって笑顔にならないわけがなかった。


使用人たちも急に決まった、結婚式の用意でバタバタと忙しく動き始め、邸の中の雰囲気まるごと変わってしまったのだった。


夕方、クレアはリック&アベルに行ってゼイルが用意した結婚式の招待状をリックや常連客に配った。


皆、がっかりした顔をしていたが、リックはセイの正体を知っていたせいもあるからか、クレアの頭をポンポンと軽くたたいて「よかったな。」と言ってくれた。


「リックはどうしてセイのことも知っていたのに、何も言ってくれなかったの?」


「そういう約束だったからね。
それに、ロイもだけどゼイルが真面目なことはお茶の味でわかったよ。

彼の出してくれるお茶はとても真面目で誠実な味がするんだ。
そんなお茶が出せる彼の足は引っ張りたくなかったしね。

かといって、君が嫌がるものを無理強いもしたくなかったんだ。
こればっかりは相性とタイミングってあると思うんだ。
うちの奥さんとの場合もそうだったからね。」


「へぇ。すごいなぁ・・・リックは。」