クレアがその日、帰宅するとゼイルがお茶をいれて待っていた。


「おかえり。疲れただろう・・・お茶付き合ってくれないか?」


「あ、はい・・・。」


食卓の上に出されたお茶とお菓子を食べると、クレアは声をあげた。


「これって・・・このお菓子とお茶は・・・。」


「懐かしいだろ。兄さんが入れていたやつ。」


「どうして?あなたがこれを私に出すなんて・・・初めてかも。」



「考案したのはもともとは俺だ。
だから俺がいた日しか出なかったはずだけどな。」


「えっ、どういうこと?」


「俺が煮出して、お菓子も裏で用意してたんだ。」


「どうして、自分で出さないの?」


「俺が考案したんだと信じてくれないと思ったから・・・。」


「あっ・・・そうかも。ごめんなさい。
あのときの私は素敵なものはみんなロイがしてくれてるとばかり思ってて。」



「いいんだ。俺も知っていたから・・・だけどさ、今は知ってほしいと思ってね。
このお茶やお菓子・・・他にも君の好きな甘くてかわいいものは俺がほとんど考えたんだってことを。」


「えっ・・・そうだったの?
ごめんなさい・・・。私、そんなのぜんぜん知らなくて。」


「なぁ・・・俺が怖いか?」


「えっ?」


「わかった。じゃあ今、約束しておくことにしよう。
俺はクレアの意思を尊重する。

クレアはまだ学生だし、しかも普通の女子大生よりオクテだ。
でも、俺はそんなクレアが気に入っている。
だから無理強いはしない。

クアントと会社のことでは約束したけど、君のことは君の意思に任せる。
まぁ、そんなことはわかってるだろうけどな・・・。」


「あの・・・」


今夜のゼイルはすごく優しい気がする・・・。

クレアは戸惑わずにはいられない。
顔が熱くなってくるのがわかるくらい、今日はどきどきしてしまう。

そもそも家に帰ってきたのもこんなことは覚悟の上だったのに、優しい言葉をかけられてどうしていいかわからなくなっている自分に幼さを感じてクレアは自分の部屋へと逃げるように走っていった。


(はあはあ・・・なんで今頃になってお菓子の種明かしみたいなこというの?
意地悪言ってこないの・・・。
おかしいじゃない。

あれ・・・あっ課題のレポート用の本をお店に忘れてきちゃったわ。
そうだ、お父さんの書庫にもたしかあったから借りてこよう。)


クレアはクアントの書斎へと移動した。