リックとの会話にささっと入ってきたのはセイだった。


「あら、セイさん。いらっしゃいませ。」


セイはにっこり笑って仕事帰りに寄ったとクレアに告げた。


クレアは手早く軽食とコーヒーの準備をする。


「自宅に帰ったら楽しい?」


「えっ?」


セイにそうきかれて、クレアは一瞬答えに困っていた。


「べつに家がとくに楽しいものだとは思ってないわ。
もうお父様も亡くなってしまったし。

それにいろいろと仕事もしなきゃいけなくなって・・・」


「仕事?」


「ええ、会社の対外的なパーティーとか催し物への出席とかね。
女性同伴じゃないといけないらしいの。」



「社長ってけっこうモテるんじゃなかったっけ?」


そういって会話に突然入ってきたのはアベルだった。


「アベル先生・・・学校帰りですか?」


「うん。ちょっと寄ってみたら、君の姿があったものだからね。」


「いつも通り調子いいですね。」


「な、何だよ。僕はこれでも准教授だからね、学校でも愛想がいいのは当然ともいえるんだよ。」


「はいはい。」


「なんかいいことあった?」


「え?」


アベルに家にもどっていいことがあったのかをきかれて、クレアはまた口ごもると横からさっとセイにひっぱられた。


「悪いね、先生。
その手の質問よりも、俺の相手をしてくれることになってるんだよ。」


「おい、そりゃないぞ。」


アベルは少しムッとしながら兄のリックに話をしにいったようだった。


「セイさん、すみません。私のせいでご気分を悪くされてしまったのではないかと。」


「いいや、こちらこそあまりしてはいけない質問をしてしまったようだから。」


「いいえ、私・・・正直言って怖いんです。
もともとゼイルが私の執事だった頃とかその前とかなら、ほんとに楽しかった。

でも、今のゼイルとは当時のような口げんかとか冗談めいたこともそうじゃなくなってしまっていて。
私はほんとはゼイルが好きなのに、今のゼイルはすごく怖くて・・・。」


「怖い?暴力とかかな?」


「いえ、まだ何をされたわけじゃないけど・・・でも触れられると怖いんです。
きっと近いうちに殴ってしまいそうで・・・それも怖いです。

嫌いじゃないのに怖いです。
パーティーだって私みたいなイモ娘で知識のない娘、連れて行ったって役にたたないのはわかってるのに。
もっときらびやかですてきな女性はたくさんおられるのに・・・嫌なんです。

でも出なきゃ、ゼイルに恥をかかせてしまうし・・・私どうしたらいいのか。」


「堂々と彼が用意したものを身に着けて立っているだけでいいんじゃないかな。
彼だって大人でしょ。
恥をかいたら、それはパーティー慣れもしていない未熟なレディを連れていったせいだと理解できるはずだろ。

それを承知で君を誘っているのなら、別のところに目的があると思わない?」


「別のところ?何でしょう?」


「それはわからんね。でも君に出てほしいと言って頼んだのなら堂々と出るしかあるまい。」


「そうでしょうか。私は出るだけでいいんでしょうか。」


「うん。クレアはこの店でも立ってるだけで花なんだからさ、役にたってやればいい。
文句とか嫌味めいたことを誰かに言われたら、それから逃げ出して帰ってもいいんじゃないか?」


「そ、そうですね。あははは。セイさんすごい!」