ゼイルの顔を久しぶりに真剣に見たクレアだったが、ひきつった顔に少しだけ涙目になっている?


「もう意地悪しない?」


「努力するよ。俺は君にとっての意地悪がどんなものなのかよくわかっていないんだ。
取引先の女性に対する扱いが親切というなら、同じようにする。

ごめん、それくらいしか言えないんだ。
それと、ダリアムが主催するパーティーはもう出る気はないんだが、その他でどうしても女性同伴でなくてはいけない催しとかもあって・・・それもクレアに頼めないかな。

もうひとりにしない。
打ち合わせも説明もきちんとやっておくようにする。」



「服もいっぱい買ってもらったし、しかたないわね。
あと1つ条件があるわ。
リックの喫茶店は今まで通りアルバイトに行きますからね。」


「ああ、かまわないよ。
それにしても、あの喫茶店にはかなりの入れ込みようなんだな。」



「喫茶店にいるというより、私と真剣にお話してくださるお客様をほったらかしにはしたくないの。
友達や学校の先生では入ってこない情報や話題がいっぱいあるのよ。

私だけの情報スペースといってもいいわ。
だから、あのバイトはやめないから。」


「そっか、わかった。」


「いいの?」


「だめだといってもやるだろ。」


「もちろんよ!」


「だったらだめとは言えない。
そうだろ。」


「ゼイルもずいぶん変わったわね。
理解してくれるようになった。」


「ふん、以前は君があまりに何も知らないネンネちゃんだったからだ。」


「ネンネちゃんですってぇ。
まぁ、確かに、今回だって助けてもらってなかったら、こんな呑気な話していられなかったと思うからいいけど・・・。」


ふと、クレアがゼイルの手の方へ視線をずらすと、ゼイルが手に包帯を巻いているのがわかった。


「ゼイル、その手はもしかして・・・私のために?」


「ちょっと俺がドジっただけだ。
クレアが気にすることはない。」


「でも・・・私のせいで・・・」


ゼイルはクレアのあたまをクシャっとなでると、クレアによく休むようにいって部屋を出て行った。


「ゼイル・・・どうして。」


翌日、リックの店に出たクレアはリックにメアリーのところから家に帰ったことを報告してお礼を言った。


「メアリーおばさんとこには、また遊びにいかせていただきますから、よろしくおっしゃってくださいね。」


「おばさんはさびしいんだよ。また行ってあげて。
といってもほとんどもう施設通いばかりで家にいても家の管理のためだけに近いけどね。」


「そうなのよね。だけど、おばさんだって家にいる日はひとりだったらさびしいに違いないし、何とか私も顔を見に行かないと!」



「ほんとにクレアは優しい娘だねぇ。」