アベルがしつこくクレアにをデートに誘っていると、すっと横からクレアの腕をひっぱって立たせ、自分が席にすわる人物がいた。


「えっ、セイさん?」


「かなりご無沙汰してしまってごめん。
ちょっと仕事で来れなくてね。」


「お仕事が忙しかったんですか?」



「はい。よかったら芸術家の卵さんがいっぱい作品を出している展覧会へ行ってみませんか?」


「展覧会ですか?」


「活き活きとしてて年齢だって君とそんなに変わらないコが描いているんだ。
隣の駅からすぐのところだから近いしね。」


話だけだったがクレアは行きたくて仕方がないという素振りをしてしまっていた。


「よし、行こう!」


「あっ・・・でも、いいんですか?
私なんか誘っても楽しくないんじゃ?」



「そんなことないよ。俺は君のことは今どきめずらしいくらいしつけの行き届いた娘さんだと思う。」


「それは言いすぎですよ。
もしそうだったとしたら・・・それは・・・。」



「それは?」


「いえ、何でもないんです。ごめんなさい。」


クレアはうっかり自分だけの執事がいて・・・と話しそうになった。
ロイそして、ゼイルのおかげなんだと気がついた。

しかし、この場でそんなことを言っても仕方のないこと・・・。

クレアはリックに早めに仕事を終わらせてもらってセイと展覧会へ行った。



「思いっきり嫌な顔してましたけど、大丈夫かな?」


「あ、たぶん・・・それにリックは私が自主的にやりたいって思ったことはどんどんやった方がいいって言ってくれます。
もちろん、勤務時間を守ってですけどね。」


「なるほど。店主はさすが人間できておられる。」


「まぁ・・・そんなこといったらアベルににらまれますよ。」


「あいつくらい平気です。」


セイについていくと、若さみなぎる作品がたくさん置いてある場所にたどりついた。

どの作品からも独特の個性、躍動感が伝わってくる。

絵も、写真も、小説も、手作り小物も。


「すごいわ。個展っていうのはその人のカラーがにじみ出てくる感じがあるけれど、若手でこんなにいろんな作品が並んでいると、色はそれぞれ違うのに、すごくがんばらないと!って力をもらってる気がします。」


「ああ、この先だって有名になれずに朽ちて行く作品も多くあるんだと思うけど、とにかく世に出さなければ!って並べられた空間は見た人間が勇気づけられるのは間違いないんだと思うね。」



「セイさんがこんな趣味があったなんて知らなかったです。
こういうのは前から?」


「10年前くらいからね。仕事をするのがつらいなって思ったのがきっかけだった。」


「おつらいんですか?」


「いつもじゃない。たまに・・・つらいなって思うことは誰でもあるでしょう?」


「ごめんなさい。私はまだ学生だからそんなにわからなくて。」


「いや、話題を変えよう。すまない。」


それから2人の会話は途切れたまま、黙って見学をしていた。