ゼイルはクレアの背後にまわると後ろから抱きしめて話の続きをした。


「どうしてクアントは会社を俺に任せたかわかるかい?」


「ロイの弟ですごく優秀な社員だったから?」


「いいや。俺はそこまで優秀な社員ではなかった。
でも、経営のすべてをたたきこまれた。

それは、俺が君が16才のときに申し出たことからなんだ。
今は、兄が取られてしまって泣いているけれど、いつか必ず俺が笑顔にする夫になりたいから・・・って。」


「うそぉ!!そんなこと・・・父さまに?」


「ああ、約束した。だけど、約束もさせられた。
社長になるまで、愛している素振りはみせてはいけない。

クレアが俺を好きになるまでは何を誘ってもだめだと。」


「それじゃ・・・。」


「俺はいじわるな執事をするしかなかった。
それだってほんとはダメだと言われていたんだ。

でも若い執事が君に何か教えるなんて、俺は我慢できるわけなくて・・・。」


「それで・・・お年寄りが続いたのね。」


「そしてやっと社長になって・・・会社をやっていくことになった。
俺から君に話しかけてもいい立場になった。

なのに・・・君には嫌われたままだ。
とても悲しかったよ。
横暴だってわかっているのに、社長室でバイトしろって言った。
こんなことなら、すべて素直に話せばよかった。」


「ほんとね。嫌なやつのやりすぎで、私は別のコーヒーショップの看板娘になっちゃったんだもんね。」


「うっ・・・頼む、あいつの・・・アベルのそばには行かないでくれ。
あいつは最初から君が何者か知っていた。
確信犯なんだ。
兄の店の手伝いだけなら、君よりずっと仕事ができる学生を選んでいるはずだろ。」


「あなたの言いたいことはわかったわ。
でも、あなたは今だって、私は他の学生より劣っていると思っているわ。
会社を経営してくれていることは、心から感謝します。
だけど・・・侮辱しすぎよ。
放して、出て行ってよ!誰を好きになるかは私が決めるわ。出て行って!!」


「おわっ!ちょ、ちょっと・・・待てよ。
俺は・・・俺は侮辱なんてしていない。
仕事ができるできないで人を判断なんてしない。

君がきれいでステキだからアベルには取られたくないんだ。」


すでに廊下に出されてドアをしっかり締められてしまってからゼイルはつぶやいた。


「どうして俺はこうタイミングが悪いんだ・・・。」