クレアは声もあげられないくらい驚いていた。

16才のとき・・・ロイが結婚したい女性がいるときいてしまったときのことを思い出していた。

ロイはずっとクレアの執事だったが、礼儀作法もお茶や食事をすすめるのも最高だと評判の執事で執事の大会でも賞をとってくるほど優秀だった。

だからクレアはロイが称賛されるのがとても誇らしかった。

そのロイが結婚したい女性がいて、執事をいとも簡単にやめてしまうときいてショックでたまらなかった。

相手の女性を殺したいと一瞬思ったほどだったが、ロイはクレアのことをあくまでもお嬢様として育ててくれた人であったし、相手の女性もロイがうれしそうに紹介してくれたが、とがめることもできないほど、いい人だった。

その女性は保育所で保母をしているミリアという女性だったが、クレアよりも何でもできて子どもの世話も難なくこなすすごい人だった。

それに比べて16才の自分の・・・なんて幼くて何もできない子どもなのか。
そう思ったときに、何もかも心の中で音をたてて壊れてしまったのだった。


本当に失恋ともいえるのだろうか?
ロイを失った悲しみよりも、自分が何もできない娘だってことの方が悲しくなってしまう。



「あのときは・・・私は何にもできない・・・今だってできないことが多い娘だわ。」


「そんなことはない。兄貴はいろいろできるしっかりした女性がタイプだっただけだ。
でも、俺は、相手に何ができるかなんて求めたりしない。

自分でできることは自分で何でもやればいいだけだろ。
俺と妹は兄の稼ぎで学校に行かせてもらった。
2人ともそれはよく知ってたから、必死で勉強したよ。
だから、恋だって自分で稼いでからだって思ってた。

そう、君が兄貴の結婚式で泣いていたとき・・・俺はすごくつらかったのをおぼえてる。
俺は執事になろうって決めたんだ。

兄さんがやめてさびしいかなって思ってたから、俺が執事だって言いに行ったんだ。
そしたら・・・大泣きしてる君がいた。
俺も大声で泣きたかった。

君は慣れた執事を失った泣き方をしてなかったから。
大切な恋人を失った悲しみだった。
俺は声をかけられずに、執事になることをあきらめた。」



「あきらめたの?
だから、おじいちゃんが続いたの?」


「詳細はわからないけど、俺はクアントに兄のあとに執事になりたいと言ってたのを取り消してもらったんだ。
俺の様子でいろいろ察してくれたクアントだったけど、ちょうど自分の仕事を教えたいっていいだして、俺は執事見習いではなくて、会社で働くようになったんだ。」


「まぁ・・・じゃ、社員だったの?」


「そういうことだ。」