クレアはゼイルの横暴さに我慢できなくなって、ゼイルを部屋から追い出そうとした。


「出てってよ。
どうして社長室でバイトしなきゃいけないのよ。
美人で有能な秘書が3人もいるじゃない!
私なんかより、その人たちに・・・」


「3人いても足りないくらいだ!
3人は働くときはそれぞれの担当オフィスに降りている。
伝票だけでも、3方向からどんどんたまっていくんだよ!
俺がいない間にどんどん書類だの伝票類、帳票類がたまっていくんだ。

バイトがひとりほしいっていうのは、そこを処理する人間がほしいってことなんだけどね。
君は何をすると思っているんだ?」


「えっ・・・?人手不足なの・・・。
だってそんなのきいてないもん。」



「俺がいるから嫌なのか?」


「だって、からかってばかり・・・。
いやらしいことだってしてくるし。」



「ちょ、ちょっと待てよ。
この前は、おまえが死にそうだったから助けてやっただけだろ。
ま、まぁ・・・社長室の話題を出したタイミングが悪かったのかもしれないけどな。

それに、おまえを冷蔵庫に閉じ込めたヤツも捕まえた。
すまない・・・俺のせいだ。」



「どうしたの?なんで謝るの?」


「おまえを冷蔵庫に閉じ込めたヤツは秘書の妹だった。
やはりうちにバイトにきてた娘でな。

バイトのくせに俺と馴れ馴れしいからって理由だったらしい。
おまえが俺の主人で同じ邸に住んでるってきいて謝ってきた。

秘書もやめるって言ってたけどな、それはなんとか思いとどまってもらったんだ。
お父さんの頃からの有能な社員は俺の代ですぐクビにしたくないからな。」


「そうだったの。
でも、それなら私は会社に寄りつかない方がいいのかも。」


「君は大学の先生の嫁さんになりたいのか?」


「えっ・・・そんなことぜんぜん考えてないのに。
ゼイルはその方がいいの?
私はこの家を出て独立する方がいいって・・・。」


クレアがそう言った途端、ゼイルはドアを閉めてクレアを抱きしめていた。


「なんで、住み慣れたところから追い出さなければならないんだ?
俺よりもずっと長くここにいて、お父さんの思い出だっていっぱいつまったこの家を離れるつもりなのか?

俺は君がここにいるから、お父さんの会社を継ぐことにしたんだ。
いや、ほんというと、君の執事でいたかった。

勉強を教えたり、ご飯を運んだり、身の回りのいろんなことを手伝ったり。」



「私のこと嫌いなんじゃなかったの?」


「逆だ。どうしようもないくらい好きだ。
そばにいたら、君を泣かせてしまうくらいに・・・。

ほんというと、ちっちゃい頃から好きだった。
でも、あの頃は俺のあとを追いかけてくる妹みたいでかわいいと思ってた。

だけど・・・あのとき。
兄さんが結婚したとき気がついてしまったんだ。
君が兄さんのことをどう思っていたか。
そして、俺が君のことをひとりの女性としてみていたことをね。」