強引にアベルに店まで連れて来られて、お兄さんのリックの面接を受けることになった。

「いやぁ、弟は強引だからごめんね。
僕は店長のリック・マルランだ。
最近まで、ホテルの洋食屋のキッチンで働いていたんだ。」


「洋食屋さんがどうしてコーヒーショップを?」


「じつはね、僕はコックとして挫折したんだよ。
僕は庶民的な味が好きだったんだが、オーナーや先輩シェフたちは高級志向でね。

それである日無断欠勤して、君の学校のある駅前の華麗戸ってコーヒーショップでぼ~っとしてたことがある。」


「華麗戸へ行ったんですか・・・?」


「うん、そしたら店長って人が『なんかつらそうですね。おしゃべり相手がいた方がいいですか?』って話をすべてきいてくれたんです。」


「ロイは聞き上手だから何でもきいてくれるでしょ?」


「あれ?詳しいな・・・もしかして店長の親戚?」


「あ、はい・・・そんなものです。
小さい頃よくお世話になって妹みたいなものです。」


「そうか。それなら、話が早いね。
店長が手を貸してくれて、コーヒーのことを教えてくれる代わりに、軽食のアレンジとかお教えしたんです。
だから、ここでは朝食、昼食はけっこうボリュームのある食事ができるのが売りなんです。」


「なるほどぉ・・・」



「ただね、メニューを多くすると運ぶ人もいるので、バイトも必要になってしまったわけです。
だから、忙しいときなんか弟だけじゃたりなくてね。」


「そうだったんですか。
私、てっきり華麗戸の敵なのかと思ってました。
このお店がロイも知ってて協力してるなら、私でできることだったらお手伝いします。」


「そうかい。ありがとう。
もちろん、学業中心だよ。学生の本分だからね。
それと、わからないことがあったら僕でも弟でもきいてくれたら、店の準備中時間にでもお教えするよ。」


「ありがとうございます。」


店長との間で書類を書いていると、エプロン姿のアベルがやってきた。


「やっぱり入ってくれるんだね。がんばってくれよ、看板娘さん。」


「まだ、私、お店に立ってないです・・・。」


「あれまぁ・・・なんか自信ない態度だねぇ。」


「だって、私・・・お食事とか運んだことなくて。」



「え、え゛ーーーーーー!!!」


「すみません、私いつも食べ物や飲み物って持ってきてもらってばかりなので・・・アルバイトも自信なくって・・・。」


「はぁ・・・君、ものすごくお嬢様なんだぁ。」