クレアはアルバイトをやめることにした。

社長室でバイトなんて優秀な秘書も何人かいるし、自分でもできるアルバイトなんてろくな仕事ではないだろうと思ったのだった。

大学の講義が終わると、クレアは学校が斡旋しているアルバイトがないか探しにいった。

「短期でも何かできることがあればいいわ。」


そんな軽い気分で出かけていったが、実際に学生部の部屋に入ると、真剣で就職先を得るかのような真剣な空気だったので、自分の考えは甘いのだと思わずにはいられなかった。


パソコンに触れようとしたとき、突然向かいに立っていた男性がクレアに話しかけてきた。


「どんなバイトさがしてるの?」


「業種は何でもいいんです。できれば簡単な事務と営業と両方できるのがいいなって感じで。」


「へぇ。普通女の子は事務だけか営業だけ・・・って希望するのが多いけどね。
じゃあ、喫茶店なんて興味ある?」


「えっ?」


「駅前に喫茶店あるよね。けっこう人気店の。

あそこよりは少し小さいけど2つ隣の駅にあるんだ。
そこで事務と営業できるコ募集してるんだけどな。」


「あなたは・・・?何物ですか?」



「僕はこの学校の先生。で、店を経営してるのはうちの兄貴なんだよ。」


(どっかできいたような話ね・・・。)


「この学校の先生って何を教えてるんですか?」


「ああ、僕は経理をね。
君の来た方向からだと学部的には同じはずだと思うんだけど。」


「あ、私は、経理については教えてくれる人がいるので、とっていません。」


「へえ、すごいね。
ご家族がお商売でもしてるの?」


「ええ。(まぁ適当でいいよね。)会計士もやっていたことあって、今は会社の社長ですから。」


「そりゃ、すごいね。」


「いえ、そんな大きい会社じゃないですから・・・。」


「でも、そういう人が近くにいて意識して勉強にきてるだけでも偉いと思うよ。
僕はアベル・マルラン。
直接教えられないのが残念だけど、アルバイトにきてくれるなら帳簿付け伝票のことは僕が教えてあげるからね。」


「あの、私、べつにやるとも何ともいってません・・・。」


「やってくれないのかい!」


アベルは少し涙目になっていた。


「うそぉ!どうしよう・・・先生泣かしちゃったら・・・どうしよう・・・。
こんなところ友達に見られたりしたら・・・。」


「せっかく店のイメージにぴったりな娘を見つけたと思ったのに・・・うう。」


「わ、わかりました。やります。私やりますから。」


「そう?ありがとう。じゃ、このあとすぐついてきて。」


「えっ・・・?このあと?」


「うん、即戦力がほしくてね。さぁいこいこっ!」