ゼイルは少し驚いた。
クレアも子どもとしては当然のように父親のことや会社のことが気になっていたのだと。


「ごめん、何とかしないとって思ってたから、君がみんなのことを心配してたのなんて知らなかった。
それにお父さんが死んでしまって、もっとショックで何もいえないんだとばかり思ってて。

ひとりで責任を感じてたんだね。
君なりに従業員の家族のこととか考えていたんだな。」


「どうしてそれを?」


「これさ。」


ゼイルはクレアの部屋にあった従業員の家族からの手紙を持ち上げた。


「1つ1つ丁寧に仕分けてある。
何度も目を通した形跡がわかる。

ずっと読みながら考えていたんだよね。」


「ええ。でも私は業務のことがわからないし、あなたと連絡もとれないし・・・正直なところ困っていたの。
最近は娘のくせに何も知らなくて、ゼイルにおんぶにだっこで暮らしているような気がして気が重くなっていたの。」


「おんぶにだっこ?そんなことはない!
クアントだって君の笑顔を見ては元気が出るって言ってた。

学校の話を君からきくたび、うれしそうで体がきつかっただろうと思ったけど、がんばれるって仕事してたよ。
君に財産は残してあげたいって言ってた。」


「そんなのいらないわ!
私はお父様さえ、生きていればそれでいいのに。
財産なんていらない。自分が生きていくくらい自分で稼ぐわよ。」


「そっか。そこまで考えているんだな。
じゃ、手伝ってもらおうかな。
もちろん、大学受験が終わってからだけどな。

まずは志望校に合格してもらう。
それからバイトから入って、正社員に・・・どうかな?」


「わかったわ。私、がんばる!」


「よし、その気持ちがあればけっこうのぼりつめられるよ。」


「でも気持ちだけじゃ、だめよ。
これからいろいろと教えてください。
よろしくお願いします。」


「あ・・・。なぁ、君は俺を嫌ってるんじゃなかったのかい?」


「それは・・・売り言葉に買い言葉っていうか。
むかつくこというから、返してただけだし。

お父様の会社をつぶすこともなく立派に経営させてくれてるのに・・・それはお礼を言わなければいけないもの。」



「ぷっ!あはははは。
さすが現代っ子というか、それはそれ、これはこれかい?」


「怒ってるの?
私に嫌味を伝えてるの?」


「いいや。君の信念はよく伝わったよ。
あいかわらず、正直でかわいいと思っただけさ。」


「あいかわらずって・・・。」



「ちっちゃな頃から変わってない。
いや、失礼、高校をまず卒業してもらってアルバイトしてもらわなきゃね。」


「ふん!だ。あなたは嫌味な人だわ。」


クレアはぷんぷん怒って部屋を出ていった。