ロイの説明では、ロイが執事をしていたときからゼイルのことを父は感心していたという。

ロイが学費を稼いで弟のゼイルと妹のナナを卒業させ、その後も生きていくために必要なことを学ぶために支援していたが、ゼイルの金銭的センスはずばぬけていて、会計士の資格まで簡単にとってしまったことから、クアントは興味をもって喫茶店に通っていたという。

そして、ロイに子どもができてしまったことをきっかけに、ゼイルはロイのしていた執事とクアントの仕事の手伝いをするようになった。



「ぜんぜん、知らなかったわ。
お父様が自分の体と関係のないところで、すでに頼んでいたなんて。

私が婿をとるよりいいと思ったのかしら?」



「そうかもしれないね。
クアント自身、婿だからね。」


「えっ・・・そうだったの?
あっ。そうだったわ・・・お母さんが10才で死んでしまったから私にとっては印象がなかったっていうだけで、私は友達のお父さんと同じだって思い込んでいたんだわ。」


「ゼイルのことはほんとに熱心に説得してたよ。
なのに、ゼイルはなかなか承諾しなくてね。」



「どうして?やっぱり・・・私が嫌いだから?」


「はぁ?ゼイルが君のことを嫌ってるだって!
まさか・・・だって僕が働いていたときって、いっぱい君と遊んでいたじゃないか。」



「えっ。私・・・あっ!
てっきり近所のお兄ちゃんくらいに思ってたけど、あれって。」


「僕の仕事が終わるのを待ってたんだよ。
だから、小さな君のお世話をしろって僕が頼んだ。」


「だって、ぜんぜん似てない兄弟だから・・・よそのお兄ちゃんだとばかり思ってた。」


「嫌っているように見えるのは、案外、妹みたいにかわいかった君がきれいな女性になったからはずかしがっているのかもしれないよ。」


「えっ。でも・・・いつも俺様で偉そうで・・・。」


「あはははは。そうか、あいつが俺様ねぇ。
ビジネスがらみだときびしいかもしれないが、その他のことなら腰の低い、いいヤツなんだけどな。」


「うそ・・・あっ、だけどこの店では・・・。」


「腰が低かっただろ?相手はお客様だしね。
まぁ態度について、君にとってつらかったのなら僕からも謝るよ。
許してやってくれないか。

それと、電話に出ないことももう少し待ってやってほしい。
きっとあいつが電話にも出ないでいるってことは、仕事が忙しいんだと思うよ。
きっと一段落ついたら、じっくり話すつもりでいると思うから待ってあげてくれないかな。
頼むよ。」


「あ、べつに私そんな怒ってるんじゃなくて、うちのことなのにみんなゼイルにしてもらって悪いと思ってるだけなので・・・。」