クレアがどれだけ悲しんでも、やることはたくさん押し寄せてきて、休む暇がしばらくなかった。

そして、やっと時間ができたかと思った頃、クレアは会社はどうなっているんだろう?と弁護士に尋ねた。



「何もご心配に及びません。
そこはお父様はとても準備がよかったといいますか、あなたに苦労をかけまいとしていたのですね。
仕事はゼイル様が引き継がれます。」


「えっ・・・どうしてゼイルが?」


「ゼイル・ナルソン・ナーガスティ様はお若いですが、経営のプロといいますか、ご自分でも会社をもっておられました。
しかし、お父様からの強い要望がございまして、ご自分のお店や会社をお兄様のロイ様に譲っておられます。」


「ちょ、ちょっと待って。
今・・・ゼイル・ナルソン・ナーガスティって言ったわね。
それとお兄様がロイ様って・・・!

ゼイルって、ロイの弟なの?」


「正確にいいますと、お父様は同じですが、お母様が違うご兄弟です。」


「異母兄弟・・・なのね。」



クレアはゼイルが何も言ってくれなかったことを悲しくて悔しい気持ちになった。

(お父様はすべて知っていたんだわ。
でも、どうしてゼイルに執事なんてさせたの?)


ゼイルの携帯にいくら電話をしても、ずっと留守録状態でクレアは困ってしまい、ふと駅前の喫茶店へと足を運んでいた。


(ゼイルのお店っていってたけど・・・今のオーナーってお兄さんなのよね。)


店長っぽい人がいたらきいてみようと思ったときだった。


「やあ、よく来てくれたね。お嬢様。」


「あっ・・・」


「ロイ。あの・・・お久しぶり。」


「僕に会いに来てくれたのかな?」


「あはは、わかっちゃってるんですね。
じつはゼイルにぜんぜん連絡がとれなくて、困ってしまって。

お仕事やそのほかのこともお父様とどういうお話になっていて、うちにきたのかなって。」



「ちょっとここでは話しづらいからオフィスの方にきてくれるかな。」


「はい。」


クレアはちょっとおじさんっぽくなったロイの後を歩きながら、クスッと笑った。

オフィスに着くとロイが不思議そうな顔をしてどうしたのか尋ねてきた。



「いえ、ロイがとっても今を幸せに暮らしておられるんだなぁっと思って。」


「幸せ太りしてるっていいたいのかい?
それはあるかもしれないなぁ。
もうすぐ、2人目の子どもができるんだ。

しっかりおっさんしてるよ。」


「あははは、何か信じられない。」