次第に速くなるスピードに少しのスリルを感じながら、胸のドキドキも加速していく。

無造作にセットされているのか、寝癖なのかわからない、少し長めの栗色の髪の毛が、あたしのおでこのあたりでふわふわと揺れてくすぐったい。

あたし、何で初対面の男子とチャリンコに乗ってるんだろう……。そういえば、名前もまだ聞いてなかったな。



「ねぇ、あんたの名前は?」

「あー名前ね。俺は片霧那央」

「カタギリ、ナオくんか……」

「那央でいいよ」



その名前を頭の中にインプットすると、彼も同じ質問をしてきた。



「あたしは牧野縁」

「ユカリってどう書くの?」

「漢字一文字の縁。緑(ミドリ)に似てるやつ」

「あーあれね。古風でいい名前じゃん、縁」



──トクン、と軽やかに心臓が跳ねたのは、段差に乗り上げた自転車がバウンドしたせいじゃない。

お父さんが“いいご縁がありますように”と、願いを込めてつけてくれた名前を褒めてくれたことが単純に嬉しかったから。

それと、ちらりとあたしを振り返った彼が、少し微笑みながら噛みしめるように名前を口にしたから。


……なんか、変なヤツ。