「一ノ瀬さんの娘さんのことだ」
「………」
「随分と仲良くなったみたいじゃないか」
「別に…そんなことは…」
「いや、いつものお前だったらわざわざ2人きりになるということはしなかっただろう?」
「………」
「それに何より、お前が楽しそうだった」
「楽しそう?」
宗助の言葉の意図が読み取れず、律はクレッションマークを頭に浮かべていた。
そんな律の様子に、宗助は嬉しそうに微笑んでいた。
「いつものお前だったら、女の子と接する時には笑顔を見せるだなんてことはしないだろうし、眉間に皺を寄せてばかりいるだろう?」
「まぁ、自覚はないが、親父が言うならそうなんだろうな」
「けど、今日のお前は違った」
「違った?」
「あぁ。いつもの律は何なんだって思うくらい、終始優しい顔をしていた」
「………」
「まるで花菜やあかねちゃんと接している律を見ているようだったよ」
「………」
「律?」
「いや、何でもない」
そう言うと律は視線を窓の外へと動かし、何やら考えごとを始めた。
そんな律の姿に、宗助はそれ以上何も言わなかった。