「……律」
「はい」
「何か迷いがあるのか?」
「迷い…」
「今日のお茶には迷いが感じられる。もし、何か悩みがあるなら聞くぞ?」
「………」
「まぁ、何もないというなら良いんだが」
「……あのさ…」
「ん?何だ?」
律は迷いながらも、話し始めた。
「親父はさ…やっぱり俺にすぐ雨宮流を継いでほしいのか?」
「なんだそんなことか。……他にやりたいことが見つかったのか?」
「いや…継ぐことは嫌じゃないし、継ぎたいと思ってるんだ。ただ…担任に大学進学を勧められたんだ」
「…進路希望調査か」
「あぁ…」
「成る程な。それでお前は迷っているわけか」
「別に迷っているわけじゃない。けど、今まで高校を卒業したら継ぐ気でいたから、どうしたら良いのかわからなくなった」
「そうか…。なぁ、律。父さんも母さんも、無理に継いでほしいとは思ってないんだよ。現に長男である創が継がないんだ。無理矢理、律に押し付けようとは思っていないし、他に何かやりたいことが見つかったんであれば、それを優先していいと思ってる」
「でも…」
「なぁ、律。お前の人生なんだ。後悔のないようにな」
「………」
「まだ時間があるんだ。ゆっくり悩むといい」
「わかった。…でも、俺は雨宮流を継ぐ。それは変わらないから」
「そうか」
そう言った宗助の表情は、とても嬉しそうであった。